さて、今回は「世界情勢と日本の製薬事業」についてお話しします。
前回ドラッグ・ラグのお話をいたしました。日本での未承認薬は、2016年にかなり改善しましたが、その後は悪化の一途をたどっています。そして残念なことに、このラグは今後、減少どころか増加する可能性が高いのです。
それはPMDAの審査体制等の内的な問題ではなく、グローバルな問題が絡んでいるため、日本だけでは解決が困難な問題で、それゆえ長引くことが予想されているのです。今後このラグが徐々に解消され、世界の薬剤が日本でタイムリーに使えるようになることが望まれます。
ここで日本の製薬業界が抱える2つの問題を解説します。ひとつは「国内製薬会社のイノベーションの遅れ」です。世界の製薬業界はここ20年で遺伝子工学やデジタル化において目覚ましく発展しました。
それにより、かつての化学化合物による薬剤開発ではなく、生物学的製剤や抗体製剤が主たる稼ぎ頭になっています。特にブロックバスターと呼ばれるような革新的なガンや中枢神経系の新規薬剤はすべてこの類です。生物学的製剤の開発には巨額の経費がかかるうえ、製薬ベンチャーとの協業やM&A(企業の合併買収)が必須ですが、海外のメガファーマに比べて日本は明らかに立ち遅れています。バイオテックベンチャーの買収合戦をしようにも収益の低い国内製薬では、海外には太刀打ちできません。点眼薬の場合、開発費は安いが収益も低い合剤等の開発に資源を集中せざるを得ず、さらに苦しい戦いを強いられています。
もうひとつは「日本の場当たり的な厚労行政と急激な薬価削減」です。高騰する医療費に向けて、2018年に薬剤費の抜本的な改革が行われました。これにより、毎年薬価の見直しが行われ、特に売れている製剤についてはより厳しい価格設定がなされるようになりました。日本はアメリカに次ぐ巨大なマーケットでしたが、医療費抑制政策などにより徐々に順位を落とし、2026年には世界4位に転落すると予想されています。
このため、もはや従来ほど魅力的な市場ではなくなってきています。昨今急激な円安が叫ばれていますが、これによりさらに日本の市場性が棄損すると思われます。革命的な効果を有するような生物学的製剤は特に開発費が巨額です。
今後さらに医療費に対する予算が厳しくなる状況で、日本で販売するメリットはさらになくなってゆくと思われます。
このように日本を取り巻く環境はますます厳しくなっており、そのためドラッグ・ラグもそう簡単に解消しそうにありません。今後は医療における保険制度や混合診療の併用など、抜本的な改革がなければ、早晩立ち行かなくなるかもしれません。