さて、今回は「他人事ではない韓国の小児科医不足問題 」についてお話しします。
2022年末ごろから韓国では猛烈な小児科医不足に陥っていることが報道されています。一部の病院では、斜視のため大学病院を紹介されると初診まで1年待ちとか、ソウルの小児科病院に行くと4-5時間待ちが常態化しているとか。
韓国では世界一のペースで少子化が進んでおり、小児科医の減少も「自然淘汰」と考えることができます。日本でも同様に小児科や産科の志望者は減少傾向にありますが、ここまでひどくはありません。
韓国で小児科が不人気の理由として、低い経営効率が挙げられています。検査が多い成人では、それなりに報酬が得られる反面、検査が少ない小児科医は平均の半分程度しか収入がないともいわれています。そのほかモンスターペアレントや小児独特の診断の難しさ、そして訴訟リスクが高い診療科目の為、敬遠されているようです。
「嫌小児科」は若い医師で顕著です。小児科の研修医の充足率は2019年に80%だったものが年々減少して、2022年は27.5%しか埋まりませんでした。
救急車のたらい回しもあたり前で、最近では5施設から断られた救急小児患者が死亡するという報道がなされました。本来緩やかであるべき労働力の転換が、急激に起こり、随所で問題になっています。厳しい規制があてはめられる医師数のコントロールは極めてデリケートです。今回のようにゆっくりと起こるべき自然淘汰が急激に進むこともあり、さらにパニックを助長します。
中高年の小児科からも「脱小児科」が相次いでいます。先日、韓国小児科学会主導の講習会が開かれ、美容皮膚科や成人内科に転向したい廃業寸前の小児科医800名がボトックス治療等の講義を受けました。つまりは公的機関も小児科というものに見切りをつけ始めたということです。今後さらに集団となって小児科から逃げだす可能性もあります。
日本の地方では医学部定員の地域枠が設定され、都会では日本専門医機構による専攻医のシーリング(採用数の上限設定)が始まっています。俯瞰的、将来的に見て秩序と計画のある医師の配置や科目転換を進めるにはどうすればいいか。韓国の例を他山の石として学ぶべきであると思います。