蝉の鳴き声に夏の到来を感じさせられるこのごろですが、皆さまお変わりありませんでしょうか。
毎日うだるような暑さですが、体調を崩されないようどうかご自愛ください。
突然ですが、今回は日本の眼科6号に千原先生の興味深い論文が掲載されましたので、ご紹介していこうと思います(千原悦夫ほか、新型コロナウイルス大流行前後の眼科医療推移 日本の眼科 95巻(6)774-780)。千原先生といえば元京大助教授を務められ、現在は宇治市で千原眼科医院の院長をされています。緑内障の権威であるだけでなく、強度近視にも造詣が深く、一度宇治までご挨拶に伺ったことがあります。今回は医療費統計をもとに、さまざまな考察をされているのですが、私はこういう類の読み物が大好きなので、勝手に食いついた次第です。
本論文では、(1)2022年(コロナ中)における対2019年(コロナ前)との各手術の増減、(2)2007-2009年平均を100とした場合の2022年までの手術数推移、(3)2022年における緑内障手術の内訳の3本柱ですが、紙幅の関係上、今回は(1)について解説します。(2)も非常に興味深い内容ですので、いずれ機会があればご紹介したいと思います。
まず知っておくべき数字として、国民総医療費が42兆円、このうち眼科関係が約1兆1千億円、そのうち22%にあたる2388億円が白内障手術関連に充てられていると述べています。つまり白内障手術は眼科の生命線といっても過言ではないでしょうし、この増減が大きく眼科総医療費に関わってきます。
領域別の増減について詳細に見てみましょう。以下すべて2019年と比較した2022年度実績について、金額ベースでのお話です。眼科手術全体では1%増で白内障は3%増、網膜硝子体手術は逆に2%減でした。網膜硝子体手術は緊急性が高いとみられがちですが、眼科の中ではほぼ平均的な変化でした。大きく増加したものが内反症手術(70%増)、眼瞼下垂手術(20%増)、緑内障レーザー手術(25%増)、緑内障手術(23%増)、眼瞼・涙器(10%増)などでした。
一方、大きく減らしたものとしては強膜・角膜手術(9%減)が挙げられます。これらはいずれも金額的には小さいもので、総額に与える影響は大きくありませんが、緊急性よりむしろ他の背景が増減に影響していると考えられます。眼瞼手術の増加は、おそらく形成外科を含めた施行施設数の増加やリモート環境の増加が関係していると思われます。また、緑内障手術の増加は、最近のデバイス、術式改良によるMIGSの普及などが関係しているのではないかと感じられます。
2022年といえば、まだ5類への解除が行われておらず、2年間にわたるコロナ疲れが見え始めた時期です。今回の数字は偶発的要素も排除できず、どこまで深く考察するかは難しいでしょう。
しかし、眼科の(金額的)メジャー手術といえる白内障、網膜硝子体手術が頭打ちとなる中、他の収入源としてマイナー手術にシフトする動きも多々見られます。眼科手術費用のメスとして「短期滞在手術等基本料3」が今回の改定で大きく削られました。今後厚労省がこれらの数字を見てどのように対応してくるのか、またコロナから脱出した2023年以降、これらの傾向がどのように変化するのか、注目されるところです。